dazai

太宰のゆるゆる生活日記

見上げた満月のように、まんまると。

 

 以下、この記事に出てくる"彼"とは、一年前の私に大きな影響を与えた人物であり、そして、私が人間として男性として愛するヒトである。私と彼の関係は、ちょうど一年前くらいにとっくに終わっている。一度も連絡は取っていない。それでも変わらず、私は彼のことがたまらなく好きで、この一年間で様々な出会いがあったものの、気持ちは誰にも一瞬たりとも動かなかった。

 

 行動するにも思考するにも、気がつけば彼ならこうするだろうと考えるのが自然になった。先日なかなかにムカつく出来事があって、思わず「わ〜!」っとなった。こんな時、彼ならきっと、怒るのは疲れるからと諦めて、鏡に映った自分は味方だから大丈夫などと言い、BUMP OF CHICKEN的思考で乗り越えるんだろうと思ったので、私も「わ〜!」を、鏡の中の自分と共有し、感情を強制終了させることに成功した。

 

 また、先日人と話をしていたら全く会話が噛み合わなくなって、「わ〜!」っとなることがあった。彼に出会うまでの私だったら、相手がぐうの音も出なくなるまで徹底的に論破する鬼畜人間だったが、彼はそんなことをしても疲れるだけだし悲しくなっちゃうからと、そっと画面を閉じて会話から逃げる人だった。今ではそれも一つの手というか、自分も相手も傷つかない最良の選択というか、そんな気がしているので、全てが全てとはいかないが、私もそれなりにうまく戦線離脱できるようになって、少し生きやすくなったと感じる。

 

 彼の何が好きなのかと問われれば、それはもう全てなのである。彼がやること成すこと、全て私にとって正しいものだった。彼が正義だった。今も、そしてこれから先もきっとそれは変わらないんだと思う。

 

 いつだったかふたりで眠くなるまで、彼のスマホの中のメモに書き溜められた名言集を眺めていた。その中に、BUMP OF CHICKENの「RAY」の歌詞「 寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから 」の一文を見た。彼は、過去に恋人に振られたショックで就活に身が入らず、内定を貰わないまま大学を卒業したという過去がある。その後アルバイトとして某最大手出版社で働きはじめ、数年後に異例の正社員登用にこぎつけた。多分新卒入社なんて無理だっただろうからと、彼が淡々と話していたことを覚えている。彼は、とても繊細な人だった。

 

 彼と出会う少し前から、私も出版業界に行きたいと漠然と考えていた。彼と出会い、仕事の話を聞いていくうちに、出版業界の楽しさに気づかせられたり、この世界は自分に向いているかもしれないと、漠然とではなく真剣に考えるようになった。そして、私は彼と別れた。これで非常に落ち込むことになるのだが、何の因果か、その後周囲からあれだけ無理だと言われていた出版業界への仲間入りを果たすことになるから驚きだ。彼と違って新卒入社にはなるが、恋人に振られどん底に落ち、そこから運良く出版業界に飛び込んでしまうというなかなかに完璧な彼ルートを辿ってしまった。ここまで寄ってくるとまじで自分がストーカー以上にヤバい奴なんじゃないかと思うところもあるが、同じ会社ではないだけ良いと言い聞かせることで、自己解決することにした。

 

  彼は最後まで、私のことを一度だって否定したことは無かった。私が出版業界に入りたいと話したとしても、きっと「大丈夫だよ」と言ってくれたんだろうなと考え、そうしてなんとか頑張ってこれた。

 

 彼はもう隣に居ない。それでも私は彼のことが大好きだ。仕事への姿勢も、人との向き合い方も、生き方も、仕草も、言葉も、雰囲気も。10歳近く年下の私にも丁寧すぎるくらいの敬語で話しかけ、年上も年下も同じ人間なんだから同じように接したいと自然に口にできる彼のことを、本当に心の底から尊敬している。そして、私をここまで導いてくれたことにとても感謝している。確実に、彼との出会いが、私の人生を変えてくれた。

 

 彼には、会おうと思えばきっと会える。正直私は会いたくなる。しかし私たちは、偶然に偶然が重ならない限り、もう二度と会うことはない。彼はレスポールジュニアのイエロー、私はレスポールスペシャルの赤を手に、異なるコードを弾いていく。

 

 何年経ったら、彼に追いつけるだろう。私は私で、ゆっくり自分のペースで、丸くなっていこう。初デートの帰り道に見上げた満月のように、まんまると。綺麗ですねと思わず口にしてしまうくらいに美しく。そして、私が彼とは別の誰かに恋した時、彼が私にしてくれたようにたくさんのものを、私も相手に与えられるような、そんな人になっていたい。