dazai

太宰のゆるゆる生活日記

【創作小説】「無題」

 

 嗚呼。わたしは、この人と恋に落ちるんだわ。

 

 初めて会ったその瞬間、わたしは確信しました。この背の高いすらっとした、少し頼りなさそうな薄ら笑いを浮かべる猫背の青年と、わたしはこれから恋に落ちる。なにやらそんな予感がいたしました。

 

 わたしは大学進学のために、実家の青森から上京して来ました。入学したのは都内の女子大学でしたが、大学には周辺の他大学とのインカレサークルが幾つか存在しました。これまで人間関係を築くことが得意でなかったわたくしでしたが、これを好機にと意を決し、サークルの類に参加してみることにしたのです。

 勿論ひとりでの参加なら不可能だったでしょう。入学して日は浅かったものの、わたくしはSNSを介して、友人とまではいかなくとも数人の知人を作ることに成功しました。そのひとりが、同じく青森から上京して来た智恵でした。

 智恵は高校生の時にテニスをしていたそうで、大学でもまたテニスがしたいと言いました。わたしは楽に楽しく過ごせればどこでもいいと考えていたため、部活より気楽に参加できそうな、テニスのインカレサークルのイベントに、ふたりで参加してみることにしました。

 その智恵と初めて会ったのは、先輩に恋に落ちるほんの数十分前でした。

 

くりくりとした大きな目にふわふわの髪の毛。小さい背丈に、ひまわりが咲いたかのようにとびきり明るい笑顔の、愛くるしい女性。それが智恵でした。女のわたしから見ても、彼女はとても魅力的な女性のように思われました。こういう女の子が、ミスコンの類のイベントに参加できるんだろうなと、自分の大学にミスコン制度なんぞ無いくせに勝手に考え、勝手に納得していました。同じ県出身ということもあり、初対面にも関わらず、わたしは智恵に対し妙な親近感を抱いていました。

「わあ若干緊張しでらんだばって」とわたしが不安を漏らすと、「大丈夫だって!とりあえずわたしもいるし!」と頼もしそうに、標準語で智恵は答えました。

「あら?なんも訛ってねえぢゃん」「うん。わたしの地域は訛りがないんだ、そっちは随分と強いんだね」「訛りの根源地だはんでさ」「それは強い」

 

 自分の方言の強さに不安を覚えながらも、気さくに接してくれる智恵との会話を楽しみながら、人混みをかき分け、駅構内を歩いていきました。そして大船駅の南改札を出て左斜め、ルミネの入り口あたりに大学生と思しき団体が群れをなしていることを確認しました。これから江ノ島に行くことがそんなに楽しみなのか、小学生のように駅の構内を追いかけっこしている頭の悪そうな男子学生もいました。これがうぇい系か。関わらないようにせねば、と警戒心を抱きつつ、それを遠くから横目で見ていたお姉さんに、わたしと智恵は話しかけました。

 「こんにちは。申し込みをしました智恵っていいます!もう一人連れてくると言っていた子が、この子です。」と、智恵はわたしに向かって両手をひらひらとさせています。「はじめまして、未咲といいます」癖がすごいイントネーションのわたしが続けて軽く自己紹介。

 「お!ようこそ我がサークルへ!智恵ちゃんに、未咲ちゃんね。よろしく!わたしはサークル幹部の3年生、阿部春香。まだ全員集合してないから、こっちでお喋りしてようよ」

 

 明るい阿部さんに率いられ、わたしたちはサークルの先輩方と暫くの間、談笑にふけっていました。その中で、わたしの方言やらイントネーションがみなさんの食いつきの対象となりましたが、こんなんで話の場が盛り上がってくれるなら、こんなに楽なことはないと、お得に思えて来ました。なかなか消えない芋くさい方言、万歳。

 

 そんな呑気なことを考えていたのは、先輩に恋に落ちる、ほんの数分前でした。